絹人往来

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まちづくり 個性ある歴史生かす 森 寿作さん(67) 桐生市本町 掲載日:2007/11/20


森山のテーブルクロスを手にする森さん
森山のテーブルクロスを手にする森さん

 明治の機業家、森山芳平が米国シカゴの世界博覧会(1893年)に出品したテーブルクロスは、桐生織の技術を集めた作品として東京国立博物館に収蔵されている。
 「わが家にも森山のテーブルクロスが家宝のように伝わっている。先代たちが、桐生の機屋さんと深くかかわってきたことの証しでしょう」
 森合資会社の4代目代表。桐生天満宮に近い買い場通りで1996年から買場紗綾市(かいば さやいち)を始めた。
 「この通りで1882(明治15)年に隣接7県の共進会が開かれた。織物市はその後も続けられ、売れずに残った反物や糸を担保に融資したのが会社の起こりです」
 紗綾市は本町1、2丁目の古い建物を生かし、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)の指定を目指す試み。
 「矢野商店が1991年に蔵を貸し出し、有鄰館と命名されて、文化財を活用する活動を目の当たりにした。交流の始まった文化庁の人たちから『戦災に遭わず、古い町並みが残っているのを壊すのは残念ですね』と言われ、目が覚めた」
 「古い建物を壊し、道を広げて、全国どこへ行っても見られるまちづくりが、本当に正しいのかと疑問がわいてきた」
 足元の見慣れたまちが違って見えてきた。
 「桐生のまちには個性がある。桐生でしかできないまちづくりは、歴史を生かすのが一番間違いないんじゃないか。地域の特徴を前面に出さなきゃいけないんじゃないかと気づいた」
 紗綾市は毎月第1土曜日に開き、12月1日で142回目を迎える。
 「歴史を生かした地域づくりで、富岡や六合は注目され、人が訪れるようになった。紗綾市を通して、富岡や六合との交流も始まり、次は桐生の番だと思っている」
 重伝建を核にしたまちづくりを今年、地域住民に問い掛けた。
 「居住者と土地建物権利者の76%が重伝建に理解を示してくれた」
 「本町1、2丁目の隣組に群馬大工学部があり、のこぎり屋根工場跡で活動するクリエーターもいる。面白い人がいっぱい関心を持ってくれるまちでもある」
 「有鄰館の使い方で学んだ『歴史を生かすまちづくり』は、これからも織物で栄えた桐生の人に伝えていきたい」

(桐生支局 山脇孝雄)