絹人往来

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かじ屋 桑摘爪に根強いファン 古見 謙一郎さん(72) 沼田市材木町 掲載日:2008/04/18


桑摘爪にやすりをかける古見さん
桑摘爪にやすりをかける古見さん

 沼田市中心街の一角で、金属をたたく音がリズムよく響く。熱心に金づちを振るうのは、昭和の初めごろから続く古見製作所の3代目。“まちのかじ屋さん”として、弟の満雄さん(60)と一緒に包丁やなたといった刃物のほか、くわやすきなど農機具を作っている。今では見かけることが少なくなった「桑摘爪(くわつみつめ)」も店頭に並んでいる。
 桑摘爪は人さし指にはめ、親指でつかんだ桑の葉を摘み取る道具。餌やりの方法が変わったことや人工飼料が普及したことで使う農家が少なくなったが、今でもナスやキュウリの収穫に愛用する人がいるという。
 「お客さんから『懐かしいね。まだあるんだね』とよく言われる。いっぺんに5個も6個も買ってくれる人もいるのでうれしい」
 玉村町の金物店からの依頼で、20年ほど前から作っている。燃え盛るコークスの中で五百度から六百度に熱した後に鍛造する。使う人の指に合わせて曲げられるように、本体を軟らかい鉄で作った。手間はかかるが、刃の部分に鋼を付け、切れ味鋭く、研ぎやすいようにした。
 「最初は不格好で切れ味が悪かったのですぐに改良した。お客さんからの信用をなくせば使ってくれなくなるから、小さいものでも手抜きはできない」
 多い日は1日に約80個、年間で二千個ほど作るという。
 「かじ屋の仕事は早さが勝負。あっという間に作らないと商売にならない」と満雄さん。
 中学校を卒業した1951年に仕事を始めた。父親の背中を見ながら手伝いをして仕事を覚えた。30歳をすぎてから、1から自分の手で刃物が作れるようになったという。
 「大変だったが、ものを作るのが好きなので苦にならなかった。今でも勉強中で、職人は自分の作るものに満足したら成長しない」
 農業が機械化され、農具の需要は減ったが、鍛造して作る刃物の魅力は変わらない。
 「外国製の刃物が増えているが、たたいて作った刃物は鋼が締まっているから丈夫で負けない。鉄をたたいてものを作る人が少なくなったから、お客さんから頼まれたら何でも挑戦したい」

(沼田支局 田島孝朗)