絹人往来

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ちりめん細工 「思い出」再生に充実感 並木 綾子さん(61) 渋川市半田 掲載日:2008/08/20


「ちりめん細工は生きがい」と話す並木さん
「ちりめん細工は生きがい」と話す
並木さん

 和風にしつらえた室内には、所狭しとちりめん細工が並んでいる。かもいにキツネの面が掛けられ、床の間には人形用の着物やうさぎのひな人形があり、母の形見のたんすにはさまざまな色合いの江戸ちりめんや大島紬(つむぎ)がぎっしり詰まっている。
 「ちりめん細工は本当に楽しい。一日やっていても飽きないぐらい。自分が一番幸せだと感じる時間だ」
 子供たちがそれぞれ独立し、これまで子育てなどでできなかったつるし雛(びな)に挑戦したことが、制作活動のきっかけとなった。
 「還暦を自分なりに祝おうと4年前に作り始め、2年後の還暦の年に完成させた。それまでどうやって作るのか不思議だったが、仕事の合間をみては没頭した。自分にもできることがうれしくて、すっかりはまってしまった」
 夫の政栄さん(65)の事業を手伝い、月の半ばは仕事に忙殺される。残りの時間を、桐生市や埼玉県川越市の骨董(こっとう)市を巡り、作品作りにつぎ込んでいる。
 「いい作品を作るにはなにより素材選びが大事だと思う。昔の職人さんしか出せない独特の生地の模様や色を見ていると、自然にこういう作品を作りたい、こういうのに向いているとイメージが際限なくわいてくる」
 作品作りを始めてから、作品を飾る自室も和風の内装に替えた。
 「絹の風合いにあった雰囲気をつくろうと思った。使わずにしまっていた欄間も、きんちゃく袋などを下げると自然なインテリアになった。日々の悩みをぱっと忘れられる空間」
 作品の中で特に思い入れがあるのは祖母の着物で作った宝袋だ。
 「人が使っていた思い出の品を再生できる充実感がある。祖母も喜んでくれると思う」
 現在、男の子の五月人形をテーマにしたつるし雛の制作に励んでいる。
 「自分はまだまだだが、昔ながらの文化を伝えていくことは大切だと思う。子供や孫に作品を通して自分の心を残していきたい。それがきっかけで興味を持ち、将来取り組んでもらえたらうれしい」

(渋川支局 田中暁)