絹人往来

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京染 和服再生好みの色・柄 島田 一三さん(69) 館林市本町 掲載日:2008/06/07


京染の見本は生地1反に12種類の柄が染め込まれている。「これも作れる人がいなくなってしまった」と話す島田さん
京染の見本は生地1反に12種類の柄が染め込まれている。「これも作れる人がいなくなってしまった」と話す島田さん

 「10年後にリサイクルすることを見越して接客するのが京染屋の仕事。着物を売る時に、染め変えしやすい柄や色を提案する。昔はリサイクルなんて言葉はなく、皆当たり前のこととして着物を親子何代にもわたって使ってきたんだ」
 白生地に顧客の好みの柄を染め、着物に仕立てて販売もするが、京染屋の本領が発揮されるのは染め変えや洗い張りといった、販売後のメンテナンスだ。
 「和服は縫い目を解いて組み合わせれば反物の状態に戻せる。これを京都の染め問屋に出して色柄を抜き、白生地に戻した上で新しい柄を染め直すのが染め変え。洗い張りは今で言うクリーニングだが、出産などで体形が変わり、寸法を調整したい時などにも行った」
 染め変えや洗い張りで、いったん反物状に戻った生地は地元の仕立職の手で新しい着物に生まれ変わる。柄や寸法を変えたりしながら同じ生地を何度も再生する。「洋服には決してまねのできない優れた経済性も和服の魅力」という。
 父親の跡を継ごうと店に入ったのは30代になってから。和服とは縁のない仕事に就いていたが、京都で働いていた際に着物の良さに触れ、帰郷を決意した。
 「当時は道行く人のほとんどが和服。子供の入学式や卒業式を控えた親は、1年ほど前から染め変えを注文しに来た。顧客は200軒以上あり、本当に忙しかった。30年ほど前のことだが、仕立屋さんに発注した着物を夜中の2時に取りに行き、朝一番で顧客に届けたこともあった」
 最近、着物に興味を持つ若者が増えてきたことをうれしく思うが、染め変えの利かない化繊の着物が多く、仕事量が増えるまでには至らない。
 「人の手で行う仕事だから、どうしても費用が高くなる。京染の需要はここ10年ほどで、随分と減ってしまった」
 今は仕事量が減るよりも残念なことがある。高価な着物がどんどん無くなっていることだ。「親が亡くなったりすると、大切にしまわれていた着物が簡単に捨てられてしまう。再生できることを知らないのか、本当にもったいないことだ」

(館林支局 坂西恭輔)