絹人往来

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歴史学習 いつか紡績所で授業 碓井正明さん(57) 藤岡市藤岡 掲載日:2007/4/19


紡績所に関する参考書を並べ「自分たちの身近なものを大切にして残していきたい」と語る碓井さん
紡績所に関する参考書を並べ「自分たちの身近なものを大切にして残していきたい」と語る碓井さん

  高崎市新町の新町第一小学校で校長を務める傍ら、住民組織「よみがえれ!新町紡績所の会」の幹事として、旧官営新町屑(くず)糸紡績所の歴史的価値の啓発や保存へ向けた運動を積極的に進めている。
 「地域材料を取り上げて子供たちに体験的な学習をさせてあげたい。保存するつもりで活動をしていかないと、いずれ取り壊されてしまうかもしれない」
 教育者としての強い思いが、活動のエネルギーだ。
 新町に隣接する藤岡市で生まれ、育った。子供のころ、鐘紡新町工場の煙突を遠くから眺め、その風景を学校で写生したこともあった。夕方、工場から鳴り響く終業のサイレンの音が、遊びを切り上げる目安だったという。
 1972年に社会科の教師となって以来、地域学習に取り組んできた。前橋市内で教師をしていた時、座繰り製糸の業者を招いて子供たちに体験させた。
 その後、新町に赴任し、子供たちを連れて鐘紡の工場敷地内を見学した時、工場の歴史が記された「鐘紡新町工場90年史」を手渡された。これを読み、官営の屑糸紡績所が新町に存在していたことを知った。
 新町では合計24年間教師を務め、歴史学習で同紡績所を取り上げてきた。
 「工業の街として発展してきた新町のルーツであり、シンボル的存在。子供たちに自分が住む地域に興味を持ってもらうためにも保存は絶対必要」
 保存運動を進める中で、一つの大きな夢がある。
 一昨年、奈良県で社会科の授業を研究する全国大会が開かれた。公開授業は学校の教室ではなく、世界遺産となっている平城宮跡の復元された朱雀(すざく)門の前で行われた。
 「その授業風景は今でも心に焼きついている。社会科の教師として、いつか紡績所の中で子供たちと学習したい。どんな思いで当時の人たちが働いていたか。五感を通して感じたい」

(藤岡支局 林哲也)