絞り 「模様の原点」に情熱 新井 巧一さん(74) 桐生市宮本町 掲載日:2008/04/30
絞りの魅力について語る新井さん
桐生織物協同組合に約40年勤務、事務局長を務めて1994年に退職した。「長年、お世話になった人たちに恩返ししたい。それには“糸偏”の仕事に携わるのが1番いい」。現在、自宅に「絞(しぼり)工房・遊」を開設、ライフワークとしてあい染めの絞りなどに取り組む。
同組合在職中は経理畑を歩んだ一方、気の合う仲間と組んで地域振興に奔走した。「はやりのNPOや地域ボランティアのはしりかね」。昨年、近代化産業遺産に認定された織物参考館「紫(ゆかり)」の設立にも携わった。
80年代、海外の衣装を集めた展覧会にかかわったことが絞りとの出合い。「仲間から教わりながら、絞りで染めた布製ポスターを手分けして作った。手作りだから同じ物は1点もない。染色の評論家から『新しい』なんて言われた。ここから本格的にのめり込んだ」
絞りを語り出すと止まらない。「平安時代からあった技法で、模様の原点とも言える。生地の一部を糸で巻くことで染色の際、色の濃淡を調節する。大正から昭和の初めにかけて桐生でも多くの人が手掛けていた」
作品づくりは手作業。1作品に3カ月かかることもあるが、根気よく糸を巻く。「絞りは自分で模様を考えられるし、時間の経過が感じられる。染めを楽しんだり、糸をほどく楽しみもある」。数年に1度、開く個展も楽しみの1つだ。
長年の付き合いがある武藤和夫さんの桐生織塾の運営を支援する。「武藤さんが病気を患ってから時間が許す限り手伝っている。恒例の企画展では準備段階から携わったこともある。昔、東南アジアに出掛けて、一緒に衣装を集めた仲だから」
「織物は、衣・食・住の『衣』。生活する上での重要な要素だ。本来は自分や家族のために作るもの」が持論。素朴でぬくもりのある作品を追求している。
絞りの素材は木綿を選ぶことが多い。「最近の絹は機械化の影響か味が感じられない。それでもたまには」と言葉を区切り、レース編みの生地を取り出した。横糸の太さが不均等な絹を手に「面白い素材もある」。白い絹地を眺め、新たな模様を思い描く。