上蔟 寝る部屋も一面に蚕 関口 キクさん(82) 中之条町上沢渡 掲載日:2006/11/09
蚕を集めるのに使ったという木鉢を手に「蚕が自分の子供のように思えた」と話す関口さん
飼育過程で蚕が十分に育ち、繭をつくらせるために蔟(まぶし)に入れることを上族(じょうぞく)という。これまでの苦労が報われる最終段階だ。
「養蚕をやっていて一番うれしい時。繭になるのも近い。黒ずんでいた蚕がだんだんと薄く黄色になってきて、透き通るようになる」
飼育の終わりが見えてくる半面、温度や湿度の調整は最も神経を使わなければならない時期。
「空気を回転させて入れ替えないといけないんだけど、空気がこもって蒸れてしまうと“たれっこ”になってしまう。たっれこっていうのは、まゆを作らない蚕。下に落ちたり、出来たとしても、薄皮といって、繭が薄くなってしまう。だから気を抜けなかった」
嫁いだばかりのころ、上族の時は蚕と一緒に寝ていたという。
「これにはびっくりした。蔟を床一面に敷くため、面積が必要になる。この家は2階屋ではなかったから、寝る部屋にも蚕を置かなければならなかった」
この上族の仕事を画期的に変えたのが、戦後に登場した回転蔟だ。1区画に1個の繭を作るように工夫され、蚕がはい上がると蔟が回転するようにしたもので、蚕が均等に分布する。
「回転蔟ができたのが大きかったねえ。それまでは男の人たちが作ったわらの蔟を使っていたが、それでは蚕がおしっこをすると繭にしみがついてしまう。だから下に敷くむしろをその都度、取り換えなければならない。この作業がなくなったのは本当に楽になったねえ」
1988年まで養蚕を続けた。82歳の現在も野菜の栽培に精を出す。養蚕から離れても、蚕に愛情を注いだ月日の思い出は胸に残る。
「蚕を飼っていると自分の子供と一緒でかわいくなってくる。神経を使うけど、やっぱり生き物だから、かわいいって思いが先に立った。ダニなんかでやられちゃうと、かわいそうで本当に涙が出た。上族したころは、繭になってくれ、と祈るような思いだったよ」