絹人往来

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桑畑 山への往復で健康に 笛木ミエコさん(72)  みなかみ町須川 掲載日:2008/11/05


手入れした桑の葉を手にする笛木さん
手入れした桑の葉を手にする笛木さん

 農村の中に広がる青々とした桑畑。背丈より大きい桑の木では、長い間蚕を育ててきた大きな葉が風に揺れている。
 「桑畑を行ったり来たりすることが、健康のためになっている。養蚕が終わる時期になると、張り合いがなくなる」
 24歳で嫁ぐまで、ほとんど無縁だった養蚕業。同じく経験の少ない夫(故人)とともに、農協からもらった養蚕の手引きを参考にしながら、繭作りに励んだ。
 「嫁いですぐにしゅうとめから養蚕を任されて戸惑った。けれども若かったから、家で持っているすべての畑に桑を植えて、夫と二人で一生懸命頑張った」
 1回につき2時間もかかる桑やり。夏は自宅前と近くの山にある桑畑を1日5回も往復した。養蚕の合間を縫って子育てと家事をこなす忙しさ。最盛期には茶の間にも蚕が並び、人の寝る場所がないほどだった。
 「忙しさのあまり、お昼にご飯の用意をしてなかったら、『人間とお蚕とどっちが大事だ』と夫から怒られた」という。
 養蚕農家が多かった時代。近所では、収量を競い合うように蚕を育てていた。「山の桑畑へと続く細い道はいつもラッシュのようで、桑を摘んで下りるときは、上ってくる人がいないか確かめる必要があった」
 25年ほど前に、町内で大規模な霜害が発生し、自宅前の桑畑は霜で全滅してしまった。けれども、山の桑畑が生き残り、なんとか蚕を育てることができた。
 「高い所だから、霜が降りてこなかったのかもしれない。蚕に優しい風通しのいい家と山の桑畑のおかげで、不作の年を1度も経験しなかった」
 夫が七年前に亡くなってから、約一万三千平方メートルあった桑畑を約七千平方メートルに減らして一人で養蚕を続けている。最近は放置された桑畑が近所に増えたせいか、野生のカモシカが近くまで下りてきて、桑を食べてしまうという。
 「せっかく桑の手入れをしても、カモシカを育てているみたい。子供はもう無理しないでやめればいいというが、山の畑を一回りした時のスカッとした気分は忘れられない。体が動くうちは続けていきたい」

(沼田支局 田島孝朗)