機屋勤務 県産生糸の質に愛着 金井 秀さん(59) 桐生市東 掲載日:2008/04/02
管巻きを整理する金井さん
先染めの糸を桐生織で仕上げ、絞りを加える。桐生の老舗機屋、泉織物は、他のどこにもない着尺を生み出している。
「ニーズの把握を大切にし、独創性も心掛ける。他社との差別化に織物の未来を模索している」
父、義次さんも同社の社員だった。子供のころは会社が遊び場。東京の短大を出て入社した。1968年のことだ。
「昭和40年代はウールから正絹に変わる節目だった。父がやっていたことを引き継ぎ、正絹の着物と羽織のアンサンブルを作った。ヒット商品になった」
40年の仕事の中でうれしい記憶として残る。
「昔は染織から整経、織まで、すべての工程を自社でできた。お客さんや問屋の声を聞きながら製品を作った。糸の色出しから意匠まで、何でも手掛けてきた」
作業はあらかじめ完成予定の着尺の全体図を描く。「流れ作業よりも、自分の頭に描いた製品が生まれることが楽しい。無から何かを作る。ものづくりの原点でしょう」
会社幹部と製品の価格や販売値、新製品などについて深く話し合う。探求心は尽きない。
「着尺機屋は減った。職人が減り、自社だけで織物は作れない。どこも一緒。小ロットのオリジナル製品を提供することに力を入れている」
染めた経糸(たていと)を使った『経絣(たてがすり)模様』や、ジャカードで織った白生地など独自製品は多い。「情報を集めて新たな流通経路を見いだし、良い商品をたくさん売りたい」
海外産の生糸も出回る中、長年使ってきた県産生糸に愛着を持つ。
「光沢や手触り、風合いなどは県産が一番優れている。フワッとした肌触りが特徴の伝統的な桐生織の一つ『風通織』にすると際立つ。特性を生かせば、絹は十分生き残れる」
商売にこだわる桐生は「桐生織」ブランドを隠して販売していた時期もあった。「技術の高い桐生の織物に誇りを持っている。今は桐生という産地、ブランドを前面に押し出している」
「桐生の技術と伝統に磨きをかけ、アイデンティティーを守りたい」。40年貫いたものづくりの先に、絹が後世に残る道があると信じている。