絹人往来

絹人往来

ニット 無縫製で低価格化を 井上  隆さん(60) 太田市末広町 掲載日:2008/01/25


シルク製品を手にする井上さん
シルク製品を手にする井上さん

 セーター、ジャケット、カーディガンなどニット製品のOEM(相手先ブランドによる生産)を手掛ける製造業者の社長を務めている。絹や綿、ウール、カシミヤなどの素材から、コンピューター管理の編み機で生産。無縫製で製品にできる技術が特徴で、その独自性がファッションに敏感な若者の関心も集めている。
 「特にシルクの製品は夏涼しくて冬暖かい。高級品のイメージがあるが、無縫製だから糸を無駄にする部分が少なく比較的安く仕上げられる」
 今や商売道具になっている絹糸。子供のころ、糸を作る繭玉は友達同士の遊び道具だった。
 「うちは父親が工場をしていたけれど、周囲は桑畑が多く、友達には養蚕農家が多かった。遊び半分に桑切りを手伝ったこともあった。桑畑になる桑の実はおやつ代わり。畑のことを『桑原食堂』なんて呼んだもんだ」
 父親が病気がちだったため大学進学をあきらめ、高校卒業後に家業に入った。
 「従業員5人でセーターの加工を手掛けていた。当時のセーターはまさに防寒具。和服に使われていた高いシルクを扱うことは無かった。シルクを扱うようになったのは1980年前後だった」
 個人経営だった事業を89年に株式会社にした。設備投資を進め、絹製品の大量生産も容易になった。最近は被服を専攻する学生が、工場を見学に来る機会が増えた。
 「旧官営富岡製糸場などの世界遺産登録運動の盛り上がりもあり、東京から富岡に行く途中で、うちの工場に立ち寄る学生グループもいる。ファッション性を重視する学生が、関心を持ってくれるのはうれしいし、業界にとってもいいこと」
 会社の事業では、本県産の絹糸を使ったブランド商品づくりに挑戦しようと計画中だ。
 「シルクの衣類はやはり高級。少しでも価格が下がるよう努力していかないと消費者に手が届かない。無縫製の技術があれば、それが可能だと考えている」
 年内の商品化に向け、セーターなどの試作に余念がない。夢は大きく膨らんでいる。

(太田支社 塚越毅)