絹人往来

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企画展 次代へアイデア無尽蔵 須関 浩文さん(47) 前橋市日吉町 掲載日:2007/06/20


 「今後も蚕を紹介するアイデアを出したい」と自作の糸繰り機を手にする須関さん
「今後も蚕を紹介するアイデアを出したい」と自作の糸繰り機を手にする須関さん

 割りばし、竹、段ボールなど身近な素材でできた「糸繰り機」がくるくる回る。子供が取っ手を回すと、真っ白な繭から美しい糸が巻き取られていく。時には歓声が上がることも。糸繰り機の周りには驚きのまなざしがあふれる。
 桐生市新里町の「ぐんま昆虫の森」に昨年春赴任した。蚕をメーンにした初の企画展を考え、9月2日まで開いている。
 「蚕は昆虫です。『ぐんまの昆虫』をテーマにする以上、蚕を真っ正面から取り上げたかった」
 生きた蚕、繭を作る足場の「まぶし」、真綿、又昔(またむかし)という品種の蚕が作ったジャンボ繭などが会場に並ぶ。
 「蚕は昆虫の中で最も人、社会とのかかわりが深い。糸を吐き、繭を作り、糸を取る。一連の作業で群馬の“シンボル”を紹介したかった。蚕をケースに入れて飾るだけの展示でなく、生きた蚕に触れてほしかった」
 県蚕業試験場の栽桑課や蚕糸課、日本絹の里、農業改良普及センターの蚕普及部門など、蚕に関係深い部署を歩いてきた。蚕糸、織物に携わる多くの人と出会った。
 「知り合った人たちの力を借りて、企画が生まれた。わらぶき屋根風の蚕棚など、私だけではとてもできなかった。資料、ビデオなどたくさん借りることもできた」
 実家は農家。牛や鶏などいろいろな家畜を飼っていたが、幼いころから蚕が最も身近にいた。
 「養蚕は収入につながる産業だった。実家は今も続けている。帰れば手伝うこともある。蚕に育ててもらった気持ちもある。桑に関心を持ったのは親の影響もある」
 昆虫の森を訪れ、蚕にふれあう若い親子を見て思う。
 「蚕に触れば『ひやっとして冷たい』『気持ちいい』と感じる。子供の時の感触は大人になっても忘れない。企画を通して命の大切さも知ってもらえればいい。経済活動の一つの養蚕が、時の流れで衰退するのは残念だけど、先人の築いた文化、知恵、技術は紹介していきたい」
 蚕を分かりやすく、親しみやすく伝えるためのアイデアは尽きない。
 「蚕と共に生きる人の生活様式も伝えたい。桑の葉に入っている成分が健康に効果があると聞いた。次は桑茶でも紹介しようかな」

(桐生支局 五十嵐啓介)