呉服 会話で最適な品探る 石井 克己さん(51) 高崎市中紺屋町 掲載日:2008/03/20
「お客さんのセンスを最大限に
生かせる着物を薦めたい」
と話す石井さん
高崎市の中央銀座通りから脇道に入って約40メートル。中紺屋町にある間口の小さな店舗の扉を開けると、目の前に20畳の和室が広がる。
「ここは戦後まで、古着横町と呼ばれた繊維の通り。高級品よりも、実用品を扱う店が並んでいた。時代の移り変わりとともに、お客さんも高級志向になった」
100年以上続く石井呉服店の長男として生まれ、かつての横町の様子を祖父や父から聞かされて育った。小学生ごろまでは人通りが多く、毎日、お祭りのようだったと記憶している。
「着物は特別なものではなく、家業に入るのも当然だった」。仕事を覚えるため、22歳から3年間、東京都内の呉服専門店で修業。茶道や華道に携わる客が多いため、30代では趣味も兼ねて陶芸を習い、接客に生かした。
「浴衣は別として、絹でなければ着物ではない。化学繊維は入門にはいいけれど、やっぱり絹を着てほしい」
京都を中心に、全国の産地からこだわりの逸品を探し、季節感豊かな品をそろえる。初対面の客も会話しながら、どんなものが欲しいのか、どんな帯を持っているか、懐具合まで判断する。
「着物姿の人が複数いたら、うちのお客さんに1番目立ってほしいし、そういう品をお薦めする。お客さんから『コーディネートを褒められた』と言われるのが一番うれしい」
10年前から5代目店主。かつて繊維の店が軒を連ねた通りも、1980年代以降、移転や撤退が続き、今では1軒だけ。「“糸偏”はどこも厳しい。問屋が最も多い日本橋でも、行ってみたら閉まっていたということが珍しくない。産地が少なくなる中で、ネットワークを張りながら、良い品を扱う問屋とのお付き合いを大切にしたい」
洗い張りや仕立て直しなどアフターケアにも気を配る。自分で着られない客には母(74)と妻(53)がサービスで着付けを教えている。
「インターネットでさまざまな商品を買う時代。着物の良さはお客さんの顔を見て、品物を見せながら伝えたいが、ネット販売も頭の片隅にある」。のれんを守りつつ、新たな挑戦の機会もうかがっている。