絹人往来

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養蚕農家 築160年、うどん店に 森下  淳さん(38) みなかみ町湯宿温泉 掲載日:2007/10/06


養蚕農家を活用した店舗の前に立つ森下さん
養蚕農家を活用した店舗の前に立つ森下さん

 国道17号沿いの湯宿温泉街から「たくみの里」へ向かうと、上り坂の途中で古びた養蚕農家が現れる。「五郎兵衛やかた」と名付けられたこの屋敷で、森下さんはうどん店を経営している。立地条件の良さも手伝って、土、日になると多くの観光客が訪れるという。
 「店は父が1982年にオープンし、私が引き継いでから13年目になる。もともとは160年ほど前に東峰の庄屋の新宅として建てられた家だが、父がこの店を始めるに当たって譲り受けた。当時、湯宿温泉は湯治で長期滞在する人が多かった。湯治客に田舎の農家で食事をする雰囲気を楽しんでもらおうと始めたようです」
 しかし、創業当初の客はほとんど地元住民。近くのたくみの里が人気になるにつれて、観光客が増えたという。人気は太めんにみそ仕立てのつゆをからめて、卓上で煮込むうどん。このほか、シイタケ、こんにゃくなど地元の食材を使った料理が好評だ。
 実家は湯宿温泉の旅館。山梨学院大を卒業後、父から店を任せられた。しかし、当時料理は全くの素人。1年間、調理師学校に通って、うどんの打ち方など基礎を学んだ。
 「いつかは店を継ぐつもりだったので、特に抵抗はなかった。父から直接教えてもらうことはなく、味は自分で研究した。うどん打ちは調理師学校だけでなく、いろいろな本を読んで研究したが、人によってやり方が全く違う。結局、良いところを集めて自己流でやっている」
 移築当初に天井の1部を改装したが、マツとクリ材の柱、梁(はり)はそのまま利用。黒光りした室内が落ち着いた雰囲気を醸し出す。一緒に付いてきた蚕具は、店に出すドクダミ茶の葉を乾燥させるのに活用している。
 「この辺は三国街道の須川宿に近く、かつては多くの養蚕農家があった。父は自分の先祖が暮らしたような家にお客さんを迎えて、ここでしかできないもてなしをしようと考えたのだと思う。当時はまだ、たくみの里もなく、父の先見性には驚かされる。うどんの味はもちろんですが、『いい家ですね』とお客さんに言われることが1番励みになる」

(沼田支局 金子一男)