絹人往来

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大クワ 樹齢1500年世界の顔へ 石井 ミツさん(71) 沼田市石墨町 掲載日:2007/4/12


大クワを前に「私が生きているうちは、草刈りは続けたい」と語る石井さん
大クワを前に「私が生きているうちは、草刈りは続けたい」と語る石井さん

 自宅敷地内の畑に大きなヤマグワがそびえ立つ。今年1月、世界遺産の国内候補暫定リストへの記載が決まった国指定天然記念物「薄根の大クワ」だ。高さ約14メートル、幹の周囲約八メートル、推定樹齢1500年というこの大クワの所有者として、毎日周囲の草刈りを続ける。
 小さいころは父が木の枝にブランコを付けてくれて、よく兄や姉と遊んだ。夏場は木の下に入ると、クワの葉で外が見えないほど真っ暗だったのを覚えている。この木はあまりに身近だったので、暫定リスト入りが決まった時はうれしかったが、正直なところ半信半疑だった」
 その後は、注目が集まり、平日でも1日4、5人の見学者が訪れる。
 「しょっちゅう人が通って気にならないかい、とよく聞かれるが、あれだけの木はどこにもない。たくさんの人に見てもらえるよう、生きているうちは草刈りだけは続けたい」
 1931(昭和6)年に東京都内に住んでいた父の万喜司さんが故郷の薄根村(当時)に帰郷、大クワ周辺で農家を始めた。当初は東京と薄根を往復していたが、ミツさんが小学3年になると同村に定住するようになった。
 沼田女子高校を卒業後、地元農協に就職し、養蚕農家から繭のサンプルとなる検定繭を集める仕事に携わった。
 ある日、村職員が万喜司さんを訪れ、大クワを天然記念物に指定したいと依頼した。
 村が沼田と合併するので、その前に指定したいとのことでした。父は『この木で金もうけをされては困る』との理由で断りましたが、当時の村長さんが何度もお願いに来たので結局根負けしたようです」
 こうして大クワは1956年に国指定天然記念物となった。83年に万喜司さんが亡くなってからは、ミツさんが遺志を引き継いでいる。
 「兄、姉、妹もみんな家を出てしまったので、たまたま私が“当番”になった。父は晩年、私に『この土地と大クワを市に寄付してもいい』と話していた。でも、父が帰郷して守ろうとしたものを私も守りたい。最近大クワを沼田の顔と言ってくれる人がいる。このまま世界遺産になって、世界の顔になればうれしい」

(沼田支局 金子一男)