回想法 養蚕が高齢者に活力 新井やす子さん(57) 神流町万場 掲載日:2008/11/21
お年寄りたちと形よく育てた繭を持つ新井さん
介護福祉士として勤務する神流町万場の特別養護老人ホーム「シェステやまの花」で、入所しているお年寄りたちと養蚕に取り組む。作業を通じて昔の記憶を呼び起こす「回想法」を取り入れているためで、介護予防に役立てている。
同施設内で養蚕が始まったのは5年前。「お蚕をもう1度飼ってみたい」という入所者の声がきっかけだった。
水田耕作が困難な奥多野地域では、30―40年前まで養蚕が生活の支えだった。入所者のほとんどが、昼夜を分かたない養蚕作業の経験を持ち、今でも深い思い入れを抱いている。
「職員にも養蚕の経験者が多い。入所者と話し合ってやってみようということになった」。当時、奥多野地域で一軒だけ残っていた養蚕農家から蚕や用具の提供を受けた。入所者や職員も家に残っていた用具を持ち寄った。
作業が始まると、「普段は車いすに乗っているお年寄りが、思わず立ち上がって蚕の世話をする」姿に目を見張った。
養蚕の時期は5、6月。今は県蚕糸技術センターから蚕の提供を受けている。「毎年、蚕が来ると、みんなの目の色が違ってくる」
蚕の世話が入所者の生活の中心になる。施設近くに借りている桑畑で桑の葉を刈り取って蚕に与え、回転蔟(まぶし)で繭を作らせる。約千個の繭を収穫した年もある。
取り組みの効果はすぐに現れた。「お年寄りたちから、養蚕の稼ぎ手だった昔の話がどんどんでてくるようになった」。入所者たちは集まるたびに、かつて育てた蚕や繭の自慢話を交わす。
「養蚕経験のない若い職員には、お年寄りたちが先生役になって指導してくれている」。町内の子供たちも、養蚕体験のために施設を訪れるようになった。
実家も30数年前まで養蚕農家だった。「自分の体験と合わせてお年寄りに教えてもらいながら、楽しんでやっている」
「かつてやっていた作業を再び体験することが生きる張り合いになっている。入所者たちの脳と体が活性化しているようだ」。生活に密着していた養蚕作業の効果を実感している。