絹人往来

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草木染講師 “桐生製”に大きな価値 萩野 光弘さん(59) 桐生市新里町板橋 掲載日:2007/06/09


展示会で座繰りの実演を披露する萩野さん
展示会で座繰りの実演を披露する萩野さん

 「桐生と言えば絹。県外出身の自分が思うのだから、それだけ全国にイメージが浸透している」
 東京都大田区出身。ガラス職人としてネオンアートの仕事を請け負ってきたが、田舎暮らしにあこがれ、妻の実家がある新里に引っ越してきた。4年前から精神障害者の家族などが運営する「虹の作業所」で働いている。
 「桐生の絹製品を扱う業者に作業所で草木染の仕事をやってほしいと声をかけられた。草木染は経験がなく、桐生の職人に教わって手探りで始めた」
 週末は染色を習いに出掛け、独学で勉強を続けた。現在は講師として、作業所の入所者に指導する立場。昨年、作業の合間に入所者が製作した作品を集めて展示会を開き、来訪者からの評価も高かったという。
 「桐生だから織物の人材も道具もそろっている。地元の特色を生かしたものづくりが、地域の発展につながる。桐生の織物が、もっと産業として盛り上がってくれたら」
 草木染を始めてから、桐生の繊維業界に人脈が広がった。「座繰り機を貸すよ」「裂いた布で織る『裂き織り』をやってみないか」。誘われる度に、織物の世界が深まった。
 「作業する利用者のために多くの織機が必要だから、自分で設計して4台を作った。この織機を使って、裂き織りのタペストリー作りにもチャレンジしている。今後は、受けた仕事を納入するだけでなく、作業所独自の製品を売り出していきたい」
 今月初めには2回目となる展示会を開催。タペストリーの展示のほか、裂き織りや座繰りの実演コーナーも設け、多くの来場者でにぎわった。
 「これが他の地域だったら、繭一つそろえるのも苦労する。地元では分からないかもしれないが、桐生で作った絹製品というだけで大きな価値がある。長い歴史の中で積み重ねてきたものは、他ではまねできない」

(桐生支局 高野早紀)